現代軽文学評論

ライトノベルのもう一つの読み方を考えます。

『りゅうおうのおしごと!』の押さえておきたいポイント

 こんにちは。前回の記事は、作者のTwitterでご紹介いただき、たくさんアクセスしてもらえました。反響が大きくてとても驚いています。累計アクセス数も4000を超えました。この機に乗じてこのブログのTwitterアカウント@b_sekidateも作りましたので、こちらもぜひお願します。

 さて、今期のアニメ(2018年1~3月放送)では、『りゅうおうのおしごと!』が放送されていて、ライトノベルなどを原作とする作品としては『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』などと並んで注目されているようですね。原作である白鳥士郎りゅうおうのおしごと!』(既刊7巻、GA文庫、2015年9月~)は、私も大好きなお話なので、これから全3回に分けて語ってゆきたいと思います。第1弾は、イントロダクションとして本作の押さえておきたいポイントについて、語ってゆきたいと思います。

―目次―

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GA文庫|「りゅうおうのおしごと!」特設ページ

 

 さて、白鳥士郎りゅうおうのおしごと!』は、16歳で史上最年少で竜王を獲得しながらスランプに陥っていた主人公・九頭竜八一が、突然押しかけてきた小学三年生の雛鶴あいを弟子に取り、互いに成長してゆく物語です。八一とあいの師弟を中心に、師匠や弟子たち、数々の棋士たちが登場する本格的なストーリー展開が魅力です。

 本作は『このライトノベルがすごい!』で2017年、18年版と2年連続で1位を取り、冒頭で述べたように2018年1月からアニメ化されました。アニメ化に合わせて、第7巻が1月刊行、第8巻が3月刊行予定となっており、この間、作者の白鳥士郎がイベントに飛び回るなど、販売戦略の方もしっかりしているようです

1.一度で3つ美味しい組み合わせ

 りゅうおうのおしごと!』は、ジャンルとしてはこの間勢いのある、お仕事もの+教師もの+ロリの組み合わせであり、作者もこの辺はしっかり意識しています[インタビュー2016:48ページ]

 「お仕事もの」としての性格は、『りゅうおうのおしごと!』という本作のタイトルで明示されていますね。かなり以前から存在するジャンルですが、こと将棋をテーマとしたものとなると第20回電撃小説大賞で銀賞を受賞した、青葉優一『王手桂香取り!』(全3巻、電撃文庫、2014年2~11月)がありますが、これは中学校の将棋部が舞台で「お仕事もの」ではありませんが、地味ながら上手く練られた作品でおススメです(その辺りはブログ『WINDBIRD』の記事「将棋ラノベ『りゅうおうのおしごと!』が人気のいまこそ『王手桂香取り!』をオススメする」が熱く語っているので、そちらに譲ります。また、青葉優一はその後も『復讐ゲーム―リアル人間将棋―』(メディアワークス文庫、2015年9月発売)も出しています)

 「教師もの」は、諸星悠空戦魔導士候補生の教官(全14巻、富士見ファンタジア文庫、2013年7月~17年7月)、羊太郎『ロクでなし魔術講師と禁忌経典アカシック・レコード(既刊12巻、富士見ファンタジア文庫、2014年7月~)など2013~14年頃に出てきた印象があります。本作が最初に企画されたのが2014年頃ですから、ちょうどこの流れに当てはまることになりますね[インタビュー2016:48ページ]

 

 ロリコンもの」は、蒼山ザグの『ロウきゅーぶ!(全15巻、電撃文庫、2009~15年)と『天使の3P』(既刊10巻、電撃文庫、2012年~)が代表的です。それ以外にも片山憲太郎『紅』(全4巻、集英社スーパーダッシュ文庫、2005~08年)長谷敏司円環少女』(全13巻、角川スニーカー文庫、2005~11年)上月雨音『SHI-NO -シノ-』(全10巻、富士見ミステリー文庫、2006~09年)、餅月望『小学星のプリンセス☆』(全3巻、集英社スーパーダッシュ文庫、2008~09年)、竹井10日10歳の保健体育(全8巻、一迅社文庫、2010~15年)、神崎紫電ブラック・ブレット(既刊7巻、電撃文庫、2011~14年)、榎宮祐ノーゲーム・ノーライフ(既刊10巻、MF文庫J、2012年~)など、断続的に出てくるジャンルです。ちなみに、作者の白鳥本人は自分のことを真正のロリコンではなく、「ビジネスロリコン[同前:49ページ]だと言っています。

 実際、本作が2014年頃に最初に企画されたときは「ロリコンもの」ではなかったといいます。当初の設定では、東京在住の20代のうだつの上がらない男性プロ棋士が、女の子(中学生くらいでしょうか)を弟子にするというものでした。ですが、この設定では「地味」だということになって、主人公を「俺TUEEE」的な実力の持ち主とし、ヒロインを小学生になったとのことです[同前:48ページ]

 確かに、元のままでは『王手桂香取り!』のように地味で、あまり話題にならない作品になった可能性があります(あるいは裕時悠示『29とJK』みたいに『K(棋士)とJK』になっていたのかも)ロリコンもの」の要素を大胆に取り入れたことで、『りゅうおうのおしごと!』は設定上の強みを獲得したのです。アニメ版は、シリーズ構成・シナリオ・キャラクターデザイン等でこの要素をさらに強調していますね。

2.キャラクター人気は必ずしも高くない?

 興味深いことに、『りゅうおうのおしごと!』は必ずしもキャラクターの人気が高いわけではありません。『このライトノベルがすごい!』のランキングでは、2017年版で雛鶴あい26位、九頭竜八一40位、空銀子49位、2018年版では空銀子33位、九頭竜八一35位、雛鶴あいにいたっては50位圏外と人気作の割にパッとしません。

 本作はこの他にもたくさんのヒロインが出てきます。八一の弟子の雛鶴あいと夜叉神天衣、女子小学生の将棋仲間(JS研)、八一の姉弟子の空銀子や女流棋士たち、さらには師匠や男性棋士の娘までいます。こうした「ハーレムもの」は、ラブコメの系譜としては、マンガだと高橋留美子うる星やつら』、ライトノベルでは築地俊彦まぶらほ』が挙げられるでしょう。加えて、メインヒロインの雛鶴あいは、ラムちゃんや宮間夕菜と同じ押しかけ女房であり、浮気を疑うと攻撃的になるところもそっくりです。

 

 けれども、「ハーレムもの」ゆえに本作のキャラクターの人気が分散しているとは必ずしも言い切れません。『やはり俺の青春ラブコメは間違っている』や『ソードアートオンライン』のように複数のキャラクターが上位にランクインする場合があるからです(この2作と比べるのはやや酷かもしれませんけれども)。だとすれば、りゅうおうのおしごと!』のキャラクター造形と、世界設定やストーリー展開との関係が問うことが重要になります。

3.綿密な取材に支えられた世界設定とストーリー展開

 『りゅうおうのおしごと!』を誰もが気付かされるのは、作者による綿密な取材や資料収集です。「ラノベ作家としては少数派だと思いますが、私は作品を執筆する際、かなり時間をかけて取材を行います」と述べており[白鳥あとがき:2巻284ページ]、また雑誌『将棋世界』のバックナンバーや棋戦の記録をずいぶんと読み込んだ模様です。棋士をはじめとした関係者とも関わりをもっているようです[インタビュー2016:50-51ページ]。ただし、将棋の世界は専門性の高いたいへん難しい世界ですので、その部分をどのように書くかが著者の腕の見せどころというわけです。

 さて、羽海野チカ『三月のライオン』(既刊13巻、ヤングアニマル連載、2007年~)は主人公の成長がストーリー展開の中心であり、柴田ヨクサルハチワンダイバー(全35巻、ヤングマガジン連載、2006~14年)は将棋指しの「業」とでも言うべきどろどろとした内面が描かれています。成長と業は、マンガや小説における「将棋もの」の定番の物語と言えるのではないでしょうか。けれども、こうした物語はあくまでも将棋の世界のものであって、普通の読者には分かりにくいという欠点があります。

 

 これに対して本作で重視されているのは、師弟関係です。師弟関係は多くの読者にとって普遍的な物語です。例えば、さかのぼると壺井栄二十四の瞳(1952年)のような小説、最近では東村アキコ『かくかくしかじか』(全5巻、Cocohana連載、2011~15年)のようなマンガなど数々の名作があります。加えて、本作の主人公・八一は師匠としては半人前であり、彼の弟子たちは八一だけでなく周囲との関係を通じて成長してゆきます。このように、『りゅうおうのおしごと!』は、師弟関係を通じて難しい将棋の世界を私たちに分かりやすく示しているのです。

 師弟関係をきちんと描くことは、現代日本のライトノベルにおける「教師もの」が陥りがちなパターンを回避することにも繋がっています。『空戦魔導士候補生の教官』や『ロクでなし魔術講師と禁忌経典アカシック・レコード』といった作品は、「俺TUEE」的な主人公のキャラクター設定を正当化し、さらに教師と教え子という〈教える―教えられる〉の一方的で権力的な関係を持ち込みがちです。この〈教える―教えられる〉という関係を問うことがきちんと出来ている作品はあまりなく、庵田定夏『今日が最後の人類だとしても』ファミ通文庫、2016年10月刊行)が挙げられるでしょう。

 本作に関して言えば、八一自身が〈教える〉ことに失敗したり、弟子たちからたくさんのことを〈教えられる〉ような、双方向な師弟関係が当初から織りこまれているところに注目したいものです。

 

 このように『りゅうおうのおしごと!』は、双方向的な師弟関係を軸とした物語として進んでゆきます。特に第1部に当たる第1~5巻は、八一とあいの師弟関係が中心軸として設定されています[本田康人2017]。そこに、もう一人の弟子で両親を失くした女の子・夜叉神天衣、八一の姉弟子の空銀子奨励会二弾、女流二冠)、八一の師匠の娘で年齢制限に苦しむ清滝桂香(関西研修会員)らの物語が加わり、女子小学生のロリータが花を添えます。

 この第1~5巻は、登場人物がとにかく涙を流します。それは物語が悲しいからではなくて、ただひたすらに将棋に情熱をかけるからこそ流れる「熱い涙」です。あいや天衣がデビューして間もないこともあり、奨励会より下の研修会が主な舞台となっているのも珍しい点です。

 第2部にあたる第6巻からは、八一が竜王を防衛し、あいと天衣は女流棋士になってからの物語で、プロ棋戦・奨励会女流棋士戦が主な舞台となってゆきます。第6巻の後半では師弟関係が新たな段階に入ったことが、印象に残るかたちで表現されています[白鳥:6巻第4譜]。また、八一以外のキャラクターにもスポットライトが当てられ、本作が群像劇としての性格を強めているようにも思えます。

 そして、最新刊の第7巻ではもう一つの師弟関係が描かれることになります。これは第2弾もう一つの師弟関係、あるいはオッサンの熱くてシブい戦い」で語ろうと思います。そして、第3弾は「白鳥士郎の苦悩と躍進と2010年代のライトノベル」と題して、作者・白鳥士郎をめぐるお話書いてみようと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。

 

【参考文献】

白鳥士郎りゅうおうのおしごと!』(GA文庫746、2015年9月発売)

・同『りゅうおうのおしごと! 2』(GA文庫784、2016年1月発売)

・同『りゅうおうのおしごと! 3』(GA文庫819、2016年5月発売)

・同『りゅうおうのおしごと! 4』(GA文庫845、2016年9月発売)

・同『りゅうおうのおしごと! 5』(GA文庫888、2017年2月発売)

・同『りゅうおうのおしごと! 6』(GA文庫925、2017年7月発売)

・同『りゅうおうのおしごと! 7』(GA文庫974、2018年1月発売)

・「白鳥士郎インタビュー」(『このライトノベルがすごい!2017』、宝島社、2016年)

・本田康人「『りゅうおうのおしごと!』が将棋小説の名作である理由」(ブログ『ホンシェルジュ』、2017年7月16日、2018年2月22日閲覧)

 

(2018年2月24日 一部加筆。特にツイッターで@tantra_festumさまに『ブラック・ブレット』をご教示いただきました。記して感謝いたします。)

(2018年2月28日 一部修正)

(2018年3月3日 一部加筆)

(2018年3月17日 一部加筆)

りゅうおうのおしごと! (GA文庫)

りゅうおうのおしごと! (GA文庫)

 
りゅうおうのおしごと! 2 (GA文庫)

りゅうおうのおしごと! 2 (GA文庫)

 
りゅうおうのおしごと! 3 (GA文庫)

りゅうおうのおしごと! 3 (GA文庫)

 
りゅうおうのおしごと! 4 (GA文庫)

りゅうおうのおしごと! 4 (GA文庫)

 
りゅうおうのおしごと! 5 (GA文庫)

りゅうおうのおしごと! 5 (GA文庫)

 
りゅうおうのおしごと! 6 (GA文庫)

りゅうおうのおしごと! 6 (GA文庫)

 
りゅうおうのおしごと! 7 (GA文庫)

りゅうおうのおしごと! 7 (GA文庫)

 
りゅうおうのおしごと! 8 (GA文庫)

りゅうおうのおしごと! 8 (GA文庫)